【確率過程】ほとんど確実に右連続な修正は区別できないことの証明

ほとんど確実に右連続な修正は区別できないことの証明を行いたいと思います。これは確率論において非常に重要な問題で、これに取り組むことで深い洞察を得ることができます。

目次

ほとんど確実に右連続な修正は区別できないことの証明

確率空間\((\Omega, \Sigma, P)\) 上の二つの確率過程\(X_t\)と\(Y_t\)を考えることにします。

以降の議論において登場する事象は全て可測ということにしておきます。

ここで、\(\Omega_t = \{ \omega \mid X_t(\omega) = Y_t(\omega) \}\) という記号を導入します。これは、時刻\(t\)での\(X_t\)と\(Y_t\)が等しい事象の集合を表しています。

さて、\(X_t\)と\(Y_t\)が何らかの特別な関係を持っている場合に名前を付けたいと思います。具体的には、もし時刻\(t\)において\(X_t\)と\(Y_t\)が確実に一致するならば、つまり

\begin{align*} P(\Omega_t) = 1 \end{align*}

ならば、これを「\(X_t\)と\(Y_t\)は互いに修正である」と言います。

更に、もし全ての時刻$t$で\(X_t\)と\(Y_t\)が一致する確率が1であるとき、数式で書くと、

\begin{align*}P( \bigcap_{t = 0}^\infty \Omega_t) = 1\end{align*}

が成立するとき、「\(X_t\)と\(Y_t\)は互いに区別できない」と言います。

では、これらの関係性について少し考えてみましょう。

確率過程が区別できないならば修正である

確率過程が区別できないならば修正である

という命題が成り立ちます。

まず、全ての時刻においての事象の交わり、つまり\(\bigcap_{t = 0}^\infty \Omega_t\)は、個別の時刻\(t\)における\(\Omega_t\)の部分集合です。

これを数式で表すと、\(\bigcap_{t = 0}^\infty \Omega_t \subset \Omega_t\) です。

この関係から、次の不等式が成り立つことがわかります。

\begin{align*} P(\bigcap_{t = 0}^\infty \Omega_t ) \leq P(\Omega_t) \end{align*}

さて、もし\(X_t\)と\(Y_t\)が互いに区別できないのであれば、全ての時刻\(t\)で、下記の条件が満たされると言えます。

\begin{align*} 1 = P(\bigcap_{t = 0}^\infty \Omega_t ) \leq P(\Omega_t) \end{align*}

これは、\(1 = P(\Omega_t)\) という結果を導きます。

つまり、\(X_t\)と\(Y_t\)が互いに区別できない場合、それらは同時に互いに修正でもあるということがわかりました。

では、逆が成り立つのはいつでしょうか。

ほとんど確実に右連続な確率過程は修正であるならば区別できない

\(X_t\) と\(Y_t\)がほとんど確実に連続な場合を考えます。

実際には、両側で連続である必要はなくて、片側で連続であればよいので、\(X_t\) と\(Y_t\)がほとんど確実に右連続な場合を考えます。

ほとんど確実に右連続な確率過程どうしは修正であるならば区別できない

という命題が成り立ちます。その証明を考えていきましょう。

念の為、ほとんど確実な事象との共通部分が確率を変えないことを思い出しておきましょう。

便宜上の記号として

\begin{align*}C_X = \{ \omega \mid X_{\dot{} } (\omega) \text{が右連続}\}, \quad C_Y = \{ \omega \mid Y_{\dot{}} (\omega) \text{が右連続}\}\end{align*}

と定めて、

\begin{align*} C = C_X \cap C_Y\end{align*}

としておきます。

\(X_t\) と \(Y_t\) はほとんど確実に右連続であるため、

\begin{align*} P(C_X) = 1, \quad P(C_Y) = 1, \end{align*}

が成り立ち、したがって \(P(C) = 1\) です。

まず、\(t \in \mathbb Q\) とは限らない任意の\(t \in \mathbb R \) に対して

\begin{align*} \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C \subset  \Omega_t \end{align*}

が成り立つことを示します。

そのために、任意に\(\omega \in \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C\) を選びます。

\(t_{i}\) を \(t_i \in \mathbb Q\) かつ \(t_i \rightarrow t\) となる減少列とします。\(\omega \in C\) であるため、\(\lim X_{t_i } (\omega ) = X_t (\omega)\) および \(\lim Y_{t_i } (\omega ) = Y_t (\omega)\) が成立します。また、\(\omega \in \bigcup_{t \in \mathbb Q} \Omega_t\) であるため、任意の \(t_i\) に対して \(X_{t_i } (\omega ) = Y_{t_i } (\omega )\) です。これにより、

\begin{align*} X_t(\omega) = \lim X_{t_i } (\omega ) = \lim Y_{t_i } (\omega ) = Y_t (\omega) \end{align*}

が導かれます。

この結果より、

\begin{align*} \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C \subset \Omega_t \end{align*}

が成り立つことがわかりました。

つまり、任意の \(t \in \mathbb{R}\) に対して、

\begin{align*} \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C \subset \Omega_t \end{align*}

が成立しているので、

\begin{align*} \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C \subset \bigcap_{t \in \mathbb R} \Omega_t \end{align*}

も成立します。

\begin{align*} P\left(\bigcup_{t \in \mathbb Q} \Omega_t ^ c \right) \leq \sum_{t \in \mathbb Q} P\left( \Omega_t ^ c \right) = 0 \end{align*}

より、

\begin{align*} P\left(\bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t\right) = 1\end{align*}

であることに注意すると、

\begin{align*} 1 = P\left(\bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t\right) = P\left( \bigcap_{t \in \mathbb Q} \Omega_t \cap C \right)\leq P\left( \bigcap_{t \in \mathbb R} \Omega_t\right) \end{align*}

であるので

\begin{align*}P\left( \bigcap_{t \in \mathbb R} \Omega_t\right) = 1 \end{align*}

が示されました。

参考文献

Karatzas, I., Karatzas, I., Shreve, S., & Shreve, S. E. (1991). Brownian motion and stochastic calculus (Vol. 113). Springer Science & Business Media.

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