寄付金ゲームについて簡単に解説【経済学ゲーム理論】

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寄付金ゲーム

寄付金ゲーム」という言葉を聞いたことがありますか?これは、ゲーム理論でよく取り上げられる内容で、寄付金を募る際に、人々にとってどのような戦略が最適なのかを考える問題です。

ゲーム理論の言葉を用いることなく、簡単に解説してみようと思います。

寄付金ゲームの設定

設定

設定1: 村には\(n\)人の村人がいます。ただし、\(2\) 人以上いることにしましょう。\(1, 2, \ldots, n\) と番号をつけることにします。

設定2: 各々が村に好きな額を寄付をします。\(i\) 番目の人が寄付する金額を\(x_i\) 円と表します。

設定3: 村は集まった寄付金を村長が運用して\(2\) 倍に増やします。そしてその総額を\(n\) 人に均等に分配します。

問題:このとき、村人はそれぞれ何円寄付するのがよいでしょうか。

寄付金ゲームの解説

\(i\) 番目の人が\(x_i\) 円寄付した場合を考えます。全体で寄付金が\(\sum_{i = 1}^n x_i\) 円集まることになります。
村長が運用すると、これが\(2 \sum_{i = 1}^n x_i\) 円に増えます。
これを\(n\)人で均等に分配すると、あとで\(\frac{2}{n}\sum_{i = 1}^n x_i\) 円返ってくるので、利益は\begin{align*} \frac{2}{n}\sum_{k = 1}^n x_k – x_i\end{align*}
円です。

適当に式を変形すると、\begin{align*} \frac{2}{n}\sum_{k \neq i} x_k + \frac{1}{n}x_i – x_i = \frac{2}{n}\sum_{k \neq i} x_k + \frac{2 – n}{n} x_i \end{align*}
となります(念の為補足しておくと、\(\sum_{k \neq i}\) は\(i\) 以外について全て足し合わせるという記号です)。

ここで、\(n \geq 2\) であるので、\(\frac{2 – n}{n} x_i \leq 0\) となることがわかります。

つまり、自分以外の人間寄付金\(x_1, x_2, \ldots, x_{i-1}, x_{i+1}, \ldots, x_n\) に依らず自分いつでも寄付金\(0\) にした方が利益が大きいことになります。

寄付金ゲームの結果

したがって、全ての人が自分にとって利益の最も大きくなる行動をとることにすると、

結果

村には1円も寄付金が集まらない

ということになります。

おまけ考察その1

もし、村長の資産運用能力がさらに高く、村人\(n\) 人に対して、寄付金を\(2n\) 倍にする力を有している場合はどうでしょうか。

この場合、\(i\) 番目の人の最終的な利益は

\begin{align*} \frac{2n}{n}\sum_{k \neq i} x_k + \frac{2n – n}{n} x_i = 2 \sum_{k \neq i} x_k + x_i \end{align*}

となります。

つまり、他の人の寄付金額によらず、ひたすら自分の寄付金\(x_i\) を増やせば増やすだけ嬉しい、という結果になります。

つまり、

結果

村人は自分の持っているお金を全て寄付する

という展開になります。

もし、村長が\(n\) 倍にしか増やせなかったとすると、\(i\) 番目の人の最終的な利益は

\begin{align*} \sum_{k \neq i} x_k + \frac{n – n}{n} x_i = \sum_{k \neq i} x_k\end{align*}

となります。すなわち、

結果

何円寄付しても利益は同じ

ということになります。

このように、分岐がおこるのは、ひとえに村長の資産運用能力で何倍に増やせるかというところに依存しています。

つまり、\(n\) 人の村人がいる村では、\(n\) 倍未満にしか増やせなければ寄付金は全く集まらないが、\(n\) 倍より多く増やせれば寄付金は無尽蔵に集まってくるという考察ができます。

おまけ考察その2

集まった寄付金を\(n\) 人で均等に分配するというのではなく、

設定:寄付した額に応じてお金が返ってくる。つまり、みんなが寄付した金額のうち、自分が出した寄付金の割合分だけ返ってくる。

という状況だとどうでしょうか。この場合、\(i\) 番目の人が\(x_i\) 円を出せば、集まる寄付金は全体で\(\sum_{i = 1}^n x_i\) 円です。村長がこれを\(2\) 倍に増やすとすると、\(2 \sum_{i = 1}^n x_i\) 円になります。これを寄付した額に応じて分配することになるので、\(i\) 番目の人の手元に戻ってくるのは

\begin{align*} 2 \sum_{i = 1}^n x_i \times \frac{x_i}{\sum_{i = 1}^n x_i} = 2 x_i \end{align*}

円です。最終的な利益は

\begin{align*}2 \sum_{i = 1}^n x_i \times \frac{x_i}{\sum_{i = 1}^n x_i} – x_i = 2x_i – x_i = x_i\end{align*}

円となります。つまり、単純に寄付したお金を村長に\(2\) 倍に増やしてもらうことと同じになります。

どうですか、多分直感的にそうだとわかりますよね。

参考文献

岡田章, “ゲーム理論” , 有斐閣.

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