レバレッジ型ETFには「逓減(decay)」と呼ばれる現象が存在し、これは長期投資におけるリスク要因となります。逓減とは、オリジナルの指標ではレンジでもとの価格に戻ってきているのに、レバレッジ型ETFの価格はもとの価格よりも低くなってしまう現象のことを指しています。この記事では逓減が発生する理由や原因を数学的に解説します。
レバレッジ型ETFがなぜ逓減するかを数学的にわかりやすく解説
レバレッジ型ETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)は、特定の指数や指標に連動する金融商品の一種であり、その動きを一定の倍率で追従することを目的としています。この種の金融商品は、市場の指数や指標の日々の変動を基に運用され、投資家にとって、市場の小さな動きを利用して大きな利益を得る可能性を提供します。
レバレッジ型ETFの良いところは、市場の僅かな上昇を利用して、それ以上のパフォーマンスを実現することができる点にあります。例えば、日経平均株価が1%上昇した場合、レバレッジ率が2倍のレバレッジ型ETFは、2%の上昇を目指します。このように、市場の上昇を最大限に利用し、より高いリターンを目指せるのが最大の魅力です。加えて、下降市場でも利用できる逆レバレッジ型ETFなど、様々な商品が存在し、市場の状況に応じた戦略を立てることが可能です。
レバレッジによる逓減とは?
逓減の具体例を見てみましょう。市場が上下に動く場合、レバレッジ型ETFの価値は予想よりも速く減少することがあります。
例えば、ある金融商品がつぎのような価格推移をする状況を考えてみましょう。
初日に\(1.1\)倍に変化し、翌日に\(\frac{1}{1.1}\)倍に変化した。
このとき、2日間での変化は次のように計算できます:
\begin{align*} 1.1 \times \frac{1}{1.1} = 1 \end{align*}
これは元の価格に戻っていることを示しています。
一方で、この金融商品に連動したレバレッジ率が2倍のETFを考えると状況は異なります。
オリジナルの価格は初日に\(0.1\)分上昇しているので、ETFでは\(0.2\)分上昇します。
従って、初日にはETFは\(1.2\)倍に変化します。
翌日は、\(\frac{1}{1.1}\)倍に変化しているので、\(1 – \frac{1}{1.1}\)の下落です。
レバレッジ型ETFでは\(2(1 – \frac{1}{1.1})\)の下落となります。
つまり、ETFでは翌日に
\begin{align*} 1 – 2(1 – \frac{1}{1.1}) \end{align*}
倍に変化します。したがって、2日間を通じてETFの価値の変化は次のように計算できます:
\begin{align*} 1.2 \left( 1 – 2(1 – \frac{1}{1.1}) \right) = 1.2 \left( -1 + \frac{2}{1.1} \right) = -1.2 + \frac{2.4}{1.1} = 0.98 \end{align*}
倍に変化します。
オリジナルの金融商品の価格はもとの価格に戻っているにもかかわらず、レバレッジ型ETFの価格は\(2\)%下落してしまうのです。
レバレッジによる逓減を数学的に解説
なぜこのようなことが起きてしまうのかを数式を用いて解説することにます。
次のような状況設定を考えましょう。
\(a\)を正負どちらの値もとりうる実数とします。
初日に\(1 + a\)倍に変化し、翌日に\(1 – \frac{a}{1+a}\)倍に変化する。
この金融商品は2日間を通して、
\begin{align*} (1 + a) \left(1 – \frac{a}{1+a} \right) = 1 + a – a = 1\end{align*}
倍に変化します。つまり、もとの価格に戻っているような状況です。
では、この金融商品の価格に連動したレバレッジ2倍のETFの価格推移はどうなるでしょうか。
以下のようになります。
初日に\(1 + 2a\)倍に変化し、翌日に\(1 – \frac{2a}{1+a}\)倍に変化する。
ですので、このETFは2日間を通して、
\begin{align*} (1 + 2a ) \left(1 – \frac{2a}{1+a} \right) &= (1 + 2a)\left( \frac{1-a}{1+a} \right) \\&= \frac{1 + a – 2 a^2}{1 + a} \\&= 1 – \frac{2 a^2}{1 + a} \end{align*}
となります。
\(a\)が\(-1\)未満でない限り、
\begin{align*} 0 < \frac{2 a^2}{1 + a} \end{align*}
であるので、
\begin{align*}1 – \frac{2 a^2}{1 + a} < 1 \end{align*}
となることがわかります。
総じて、レバレッジ型ETFは高いリターンを目指す投資手段として魅力的ですが、逓減効果のようなリスクも伴います。これらの商品を上手に活用するには、市場の動きに敏感であり、かつ短期間での利益確定や損切りを適切に行える投資戦略が求められます。投資家は、レバレッジ型ETFのメカニズムを深く理解し、自身の投資目標とリスク許容度に基づいて慎重に投資判断を下すことが重要です。
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