正規分布に従う確率変数の積率母関数について考えてみましょう。ここで、確率変数\(X\)は平均\(\mu\)、分散\(\sigma^2\)の正規分布に従うとします。すなわち、\(X \sim \mathcal N (\mu, \sigma^2)\)です。
積率母関数は、確率変数のモーメントを生成するための便利なツールです。特に、正規分布の場合、積率母関数は解析的に計算することが可能です。
正規分布の積率母関数
確率変数\(X\) の積率母関数は以下のように定義されます:
\begin{align*} M_X(t) = E(e^{tX})\end{align*}
ここで、\(E\)は期待値を表し、\(t\)は実数です。
正規分布の積率母関数を計算するためには、まず\(e^{tX}\)の期待値を計算する必要があります。これは、正規分布の確率密度関数を用いて積分を行うことで求めることができます。
正規分布の確率密度関数は以下のように表されます:
\begin{align*} f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} e^{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}}\end{align*}
したがって、積率母関数は以下のように計算できます
\begin{align*} M_X(t) = E(e^{tX}) = \int_{-\infty}^{\infty} e^{tx} f(x) dx\end{align*}
(あとでこの積分を実際に計算します)
この積分を解くことで、正規分布の積率母関数を得ることができます。
実際に正規分布の積率母関数を計算する
\begin{align*} e^{tx} = e^{\frac{2t \sigma^2 x}{2 \sigma^2}}\end{align*}
であることに注意します。
\begin{align*} E(e^{tX}) &= \int_{-\infty}^{\infty} e^{tx} \frac{1}{(2 \pi \sigma^2)^{1/2}} e^{- \frac{(x- \mu)^2}{2 \sigma^2}} dx \\&= \int_{-\infty}^\infty \frac{1}{(2 \pi \sigma^2)^{1/2}} e^{- \frac{(x^2 – (2 \mu + 2t \sigma ^2) x + \mu ^2 )}{2 \sigma^2}} dx \\&= \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{(2 \pi \sigma^2)^{1/2}} e^{- \frac{(x – (\mu + t\sigma^2) ) ^2 – (2t \mu \sigma^2 + t^2\sigma^4) }{2 \sigma^2}} dx \\&= e^{t\mu +\frac{t^2}{2}\sigma^2} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{(2 \pi \sigma^2)^{1/2}} e^{- \frac{(x – (\mu + t\sigma^2) ) ^2 }{2 \sigma^2}} dx \\&= e^{t\mu + \frac{t^2}{2}\sigma^2} \end{align*}
従って、
\(X\)を正規分布\(N(\mu, \sigma^2)\)に従う確率変数とすると、その積率母関数は、
\begin{align*} M_X(t) = E(e^{tX}) = e^{t\mu + \frac{t^2}{2}\sigma^2} \end{align*}
であることがわかりました。
おまけ:積率母関数から正規分布の期待値を計算する
\begin{align*} E(X) = \partial_t |_0 E(e^{tX}) \end{align*}
であることから、正規分布の期待値は積率母関数を微分することで求めることができます。
適当に微分可能な関数\(a(t)\) に対して
\begin{align*} \partial_t e^{a(t)} = a^\prime (t) e^{a(t)}\end{align*}
であることを思い出しておきます。
\begin{align*} \partial_t e^{t\mu + \frac{t^2}{2}\sigma^2} = \left( \mu + t \sigma^2 \right) e^{t\mu + \frac{t^2}{2}\sigma^2} \end{align*}
ですので、
\begin{align*} E(X) = \partial_t |_0 E(e^{tX}) = \left( \mu + 0 \right) e^{0} = \mu\end{align*}
おまけ2:正規分布の2次モーメントを計算
\begin{align*} \partial_t^2 E(e^{tX}) = \sigma^{2} e^{\mu t + \frac{\sigma^{2} t^{2}}{2}} + \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{2} e^{\mu t + \frac{\sigma^{2} t^{2}}{2}} \end{align*}
より、
\begin{align*} E(X^2) = \sigma ^2 + \mu^2 \end{align*}
おまけ3:正規分布の3次モーメントを計算
\begin{align*} \partial_t^3 E(e^{tX}) = 3 \sigma^{2} \left(\mu + \sigma^{2} t\right) e^{\mu t + \frac{\sigma^{2} t^{2}}{2}} + \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{3} e^{\mu t + \frac{\sigma^{2} t^{2}}{2}} \end{align*}
より、
\begin{align*} E(X^3) = 3 \sigma ^2 \mu + \mu^3 \end{align*}
おまけ4:正規分布の4次モーメントを計算
\begin{align*} \partial_t^4 E(e^{tX}) = \left(3 \sigma^{4} + 6 \sigma^{2} \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{2} + \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{4}\right) e^{ \left(\mu t + \frac{\sigma^{2} t^2}{2}\right)} \end{align*}
なので、
\begin{align*} E(X^4) = \mu^{4} + 6 \mu^{2} \sigma^{2} + 3 \sigma^{4}\end{align*}
おまけ5:正規分布の5次モーメントを計算
\begin{align*} \partial_t^5 E(e^{tX}) = \left(\mu + \sigma^{2} t\right) \left(15 \sigma^{4} + 10 \sigma^{2} \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{2} + \left(\mu + \sigma^{2} t\right)^{4}\right) e^{ \left(\mu t + \frac{\sigma^{2} t^2}{2}\right)}\end{align*}
なので、
\begin{align*}E(X^5) = \mu \left(\mu^{4} + 10 \mu^{2} \sigma^{2} + 15 \sigma^{4}\right) \end{align*}
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