非正則な正方行列が零行列または零因子であることの証明

この記事では、非正則な正方行列が零行列または零因子であることを証明します。まず、いくつかの基本的な定義を整理し、その後で証明に進みます。

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非正則な正方行列が零行列または零因子であることの証明

定義を整理していきましょう。\(A\) を\(n\) 次正方行列とします。

\(n\)次正方行列\(A\)について、その行列式が非ゼロである場合、すなわち\(\det(A) \neq 0\)である場合、\(A\)を正則行列といいます。

一方で、行列式がゼロである場合、\(\det(A) = 0\)、\(A\)は非正則行列と言われます。

零行列というのは、全成分が\(0\) である行列のことです。

(左)零因子というのは、零行列ではないが、\(B \neq 0\) で\(A B = 0\) を満たすものが存在する行列です。つまり、\(0\) でないし、\(0\) でない行列とかけたのに、\(0\)になることがあるような行列です。

(補足1):\(0\) を零因子に含める場合もありますが、今回は\(0\)と零因子を区別することにします。

(補足2):行列全体は可換でないので、左零因子と右零因子は区別されます。従って両側零因子であることを示すには、右零因子であることを示す必要がありますが、転置行列が左零因子であることを示せばよいので、正方行列が左零因子であることが示せれば、自動的に右零因子にもなるので、結果的に自動的に両側零因子になります。

証明

\(A\) の固有値を\(\lambda_1, \lambda_2, \dots, \lambda_n \) とします。

\(A\)は非正則行列ですので、\(\det A = 0\)です。

\begin{align*} \det A = \lambda_1 \lambda_2 \cdots \lambda_n \end{align*}

ですので、

\begin{align*} \lambda_1 \lambda_2 \cdots \lambda_n = 0\end{align*}

が成り立ちます。

したがって少なくとも一つの固有値\(\lambda_i\)が\(0\)でなければなりません。

\(0\)を固有値として持つので、対応する固有ベクトルを\(v\)(\(v \neq 0\))とします。

次に、\(v\)と\(n-1\)個の\(0\)ベクトルを並べて、\(n \times n\)行列

\begin{align*} (v, 0, \dots, 0) \end{align*}

を考えます。

\(v\) が固有値\(0\) に対応する固有ベクトルであることから、\(A\) と \((v, 0, \dots, 0) \) の積は

\begin{align*} A (v, 0, \dots, 0) = 0 \end{align*}

となります。

このことは、\(A\) が零行列であるか、(左)零因子であることを意味します。以上により証明を終了します。

具体例

具体例をみてみましょう。

\begin{align*}\begin{pmatrix} 2 & 2 \\ 1 & 1 \\ \end{pmatrix} \end{align*}

という行列を考えます。行列式が\(0\) なので正則ではありません。

\begin{align*} \det \begin{pmatrix} 2 – \lambda & 2 \\ 1 & 1 – \lambda \\ \end{pmatrix} = \lambda(\lambda – 3) \end{align*}

なので、固有値は\(0, 3\)です。

固有値\(0\)に対応する固有ベクトルとして

\begin{align*} \begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ \end{pmatrix} \end{align*}

がとれます。

\begin{align*} \begin{pmatrix} 2 & 2 \\ 1 & 1 \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ -1 & 0 \\\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \\\end{pmatrix} \end{align*}

となるので、確かに

\begin{align*}\begin{pmatrix} 2 & 2 \\ 1 & 1 \\ \end{pmatrix} \end{align*}

は(左)零因子であることが確かめられました。

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