多変量標準正規分布の対称冪等行列による2次形式がカイ二乗分布に従うことの証明

この記事では多変量標準正規分布の対称冪等行列による2次形式が、冪等行列のランクを自由度とするカイ二乗分布に従うことを証明します。つまり主張は次のとおりです。

命題

\(x\)を\(n\)次元多変量標準正規分布
\begin{align*} x \sim N (0, I)\end{align*}
に従う確率ベクトルとする。\(P \in M_n\)を\(\text{rank} P = p\)である実対称な冪等行列、つまり
\begin{align*} P^t = P, \quad P^2 = P \end{align*}
である\(n\)次実正方行列とする。このとき、
\begin{align*} x^t P x \end{align*}
は自由度\(p\)のカイ二乗分布\(\chi_p^2\)に従う。つまり、
\begin{align*} x^t P x \sim \chi_p^2 \end{align*}
である。

実際にこのことを確かめてみましょう。
最初に\(P\)を対角化します。
\(P\)は実対称冪等行列なので、固有値は\(0\)が\(n-p\)個、\(1\)が\(p\)個です。
(この事実は、下記の記事の後半にて記載しています)


また、実対称行列は直交行列で対角化できます。ですので、適当な直交行列\(S \in O_n\)で、
\begin{align*} P = S^t \Lambda_p S \end{align*}
と対角化することができます。ただし、
\begin{align*} \Lambda_p \begin{bmatrix}I_p & 0 \\0 & 0_{(n-p) \times (n-p)} \end{bmatrix} \end{align*}
であり、\(0_{(n-p) \times (n-p)}\)は全要素が\(0\)の\(n-p\)次正方行列を表しております。

ということで、
\begin{align*} x^t P x = x^t S^t \Lambda_p S x \end{align*}
と式変形することができます。
ここで、多変量標準正規分布の直交行列による変換も多変量標準正規分布という事実を用います。

つまり、
\begin{align*} Sx \sim N(0, I)\end{align*}
です。そこで、
\begin{align*} y = Sx \end{align*}
と表記することにします。すると、
\begin{align*} x^t P x &= x^t S^t \Lambda_p S x
\\&= y^t \Lambda_p y
\\&= y_1^2 + y_2^2 + \cdots + y_p^2 \end{align*}
であることが分かります。
標準正規分布の2乗の\(p\)個の和なので、これは自由度\(p\)のカイ二乗分布に従います。

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