複数のランダムな出来事に直面した際に、最も好ましい選択をする意思決定の基準として、「確率優越」という考え方が役に立つことがあります。
確率優越の考え方についてわかりやすく解説
確率優越という考え方についてまずは定義を確認しましょう。
設定として、効用関数\(u\)をもつ個人が存在するとします。
\(X, Y\)をそれぞれ密度関数\(f, g\)をもつ確率変数とする。
\(X\)が\(Y\)に対して一次確率優越(First-order stochastic dominance)の関係にあるとは、
\begin{align*} \int_{-\infty}^{x} f(r) – g(r) dr \leq 0 \quad (\forall x \in \mathbb R) \end{align*}
が成り立つことをいう。
(補足)1次確率的優越と言ったり、一次確率優越であると言ったり、一次確率支配していると言ったり、文献により様々な表現が用いられます。
ただちに成り立つ言い換えとして、\(X, Y\)の累積分布関数をそれぞれ\(F, G\)とすると、
\begin{align*} \int_{-\infty}^{x} f(r) – g(r) dr \leq 0 \quad (\forall x \in \mathbb R) \end{align*}
はつまり、
\begin{align*} \int_{-\infty}^{x} f(r) dr \leq \int_{-\infty}^x g(r) dr \quad (\forall x \in \mathbb R) \end{align*}
であるので、
\begin{align*} F(x) \leq G(x) \end{align*}
であるときに、\(X\)が\(Y\)に確率優越の関係にあるということがわかります。
二次分布関数
通常我々が目にする分布関数は一次分布関数というもので、二次分布関数というものを考えることもできます。
\(X\)を確率密度関数が\(f\)である確率変数とする。
\begin{align*} F_2 (x) = \int_{-\infty}^x \left( \int_{-\infty}^\xi f(u) du \right) d\xi \end{align*}
と定め、これを二次分布関数という。
二次分布関数に対しても同様に確率優越の概念を定めることができます。
\(X, Y\)をそれぞれ二次分布関数が\(F_2, G_2\)である確率変数とする。
\(X\)が\(Y\)に対して二次確率優越(Second-order stochastic dominance)の関係にあるとは、
\begin{align*} F_2 (x) \leq G_2(x) \quad (\forall x \in \mathbb R) \end{align*}
が成り立つことをいう。
また、同様にして\(n\)次の分布関数と\(n\)次確率優越の概念を定義することもできます。
強確率優越
ふたつの確率変数の間に単に確率優越の関係があるというだけでは、分布関数が同じである場合も含まれる。
従って、そのような場合どちらかが真に支配的な分布であるということはできない。
そこで、真にどちらかが支配的な分布にあるという状況を数学的に表現すると、次のような定義をすることができる。
\(X, Y\)をそれぞれ分布関数\(F, G\)をもつ確率変数とする。
\(X\)が\(Y\)に対して一次確率優越しており、さらに
\begin{align*} F(x) < g(x) \end{align*}
をみたす\(x\)が存在するとき、\(X\)が\(Y\)に対して強一次確率優越の関係にあるという。
\(X, Y\)をそれぞれ二次分布関数\(F_2, G_2\)をもつ確率変数とする。
\(X\)が\(Y\)に対して二次確率優越しており、さらに
\begin{align*} F_2(x) < g_2(x) \end{align*}
をみたす\(x\)が存在するとき、\(X\)が\(Y\)に対して強二次確率優越の関係にあるという。
確率変数の効率性
確率優越の概念は、どちらの確率変数の方を選択するという意思決定の指針となる。
例えば、ふたつの宝くじA, Bで、リターンが\(r\)となる確率が\(f(r), g(r)\)であるものが存在したとする。
もし、AがBに対して確率的優越な状況にあるならば、宝くじBを選択する動機はない。
そこで、確率優越する確率変数が存在しないようなものを効率的であると捉えることができる。
このことを数学的に定式化すると次のようになる。
\(\mathfrak X\) を確率変数の集合とし、\(X\)を確率変数とする。
\(X\)を真に一次確率優越する確率変数が存在しない時、\(X\)は\(\mathfrak X\)の中で一次効率的であるという。
\(\mathfrak X\) を確率変数の集合とし、\(X\)を確率変数とする。
\(X\)を真に一次確率優越する確率変数が存在しない時、\(X\)は\(\mathfrak X\)の中で二次効率的であるという。。
いくつかの確率的な選択肢の集合が与えられた時には、効率的な確率変数を選ぶという方針を採用することができる。
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