移動平均過程(Moving Average Process MAモデル)の自己相関の計算や定常性について解説します。
移動平均過程(MAモデル)の自己相関の計算をわかりやすく解説
パラメータ\(q\) をもつ移動平均過程(以下MA(q))とは、時刻\(t\)における値を、定数と過去\(q\)期間のホワイトノイズの線型結合により表すモデルです。具体的には、以下のようなモデルです。
ここで、期間は整数値をとることにします、すなわち\(t \in \mathbb Z\) です。
\begin{align*} Y_t = \mu + \epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i} \end{align*}
ただし、\(\mu\) は適当な定数で、\(\epsilon_t\) は異なる期間同士で互いに独立かつ平均\(0\)、分散\(\sigma^2\) である確率変数(すなわち、ホワイトノイズ)である。
MA(q)モデルの期待値についての性質を証明
\begin{align*} E(Y_t) = \mu \end{align*}
が成立します。実際、任意の期間\(t\)に対して\(E(\epsilon_t)= 0\)であるので、
\begin{align*} E(Y_t) = E(\mu + \epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i} ) = \mu + E(\epsilon_t) + \sum_{i=1}^{q} \theta_i E(\epsilon_{t-i}) = \mu \end{align*}
が得られる。
MA(q)モデルの分散についての性質を証明
\begin{align*} V(Y_t) = (1 + \sum_{i = 1}^q \theta_i ^2) \sigma^2 \end{align*}
が成り立つ。実際、ホワイトノイズであることから\(Cov(\epsilon_t, \epsilon_s) = 0\) であるので、
\begin{align*} V(Y_t) &= V\left( \mu + \epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i} \right)\\&= V\left( \epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i} \right) \\&= \left(1 + \sum_{i=1}^{q}\theta_i^2 \right) \sigma^2 \end{align*}
例えば、MA(1)モデルの場合
\begin{align*} V(Y_t)= \left( 1 + \theta_1^2 \right) \sigma^2 \end{align*}
であり、MA(2)モデルの場合
\begin{align*}V(Y_t)= \left(1 + \theta_1^2 + \theta_2^2 \right) \sigma^2 \end{align*}
であることが確認できます。
MA(q)モデルの自己共分散・自己相関についての性質を証明
自己共分散を計算してみましょう。いきなり計算しようとすると、添字の扱いをミスしてしまうかもしれないので、具体的に、MA(4)の\(t= 10, 5, 3\) を書き下してみましょう。以下のようになります。
\begin{align*}&Y_{10} = \mu + \epsilon_{10} + \theta_1 \epsilon_9+ \theta_2 \epsilon_8 + \theta_3 \epsilon_7 + \theta_4 \epsilon_6 \\&Y_5 = \mu + \epsilon_5 + \theta_1 \epsilon_4+ \theta_2 \epsilon_3 + \theta_3 \epsilon_2 + \theta_4 \epsilon_1 \\& Y_3 = \mu + \epsilon_3+ \theta_1 \epsilon_2+ \theta_2 \epsilon_1 + \theta_3 \epsilon_0 + \theta_4\epsilon_{-1} \end{align*}
この具体例を念頭に入れながら計算をすると、
\begin{align*} Cov(Y_t, Y_{t-k}) &= Cov(\mu + \epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i}, \mu + \epsilon_{t-k} + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-k-i} ) \\&= Cov(\epsilon_t + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-i}, \epsilon_{t-k} + \sum_{i=1}^{q} \theta_i \epsilon_{t-k-i} ) \\&= \begin{cases} (1 \theta_k + \theta_1 \theta_{k+1} + \cdots \theta_q \theta_{k + q}) \sigma^2 &(1 \leq k \leq q)\\ 0 & (q + 1 \leq k) \end{cases} \end{align*}
となります(\(1 \theta_k\) は単に\(\theta_k\) のことです)。自己相関\(R(t, k) \)の定義は
\begin{align*} R(t, k) = \frac{Cov(Y_t, Y_{t-k}) }{V(Y_t)} \end{align*}
であるので、
\begin{align*}R(t, k) &= \frac{Cov(Y_t, Y_{t-k}) }{V(Y_t)} \\&= \begin{cases} \frac{1 \theta_k + \theta_1 \theta_{k+1} + \cdots \theta_q \theta_{k + q}}{1 + \theta_1^2 + \cdots \theta_q^2} &(1 \leq k \leq q)\\ 0 & (q + 1 \leq k) \end{cases} \end{align*}
となります。
MA(q)モデルの定常性の証明
MA(q)モデルについて、期待値が時刻\(t\)に依存せず\(\mu\)であることと、自己共分散と自己相関が、\(k\) にのみ依存し、\(t\)には依存しないことが確認できます。このことは、すなわち過程が定常であることを意味します。
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